工事保険(建設工事保険)は、工事中の建物や資材そのものが、火災・盗難・風災などで損害を受けたときに備える保険です。法律で一律に加入が義務づけられているわけではありませんが、公共工事の契約書や元請・発注者との契約で付保を求められることがあります。他人への賠償に備える請負賠償とは守備範囲が違うため、両方の役割を分けて考えることが大切です。
この記事のポイント
- 工事保険は「工事の目的物そのもの」の損害に備える保険です。
- 公共工事の契約書には、工事目的物を火災保険・建設工事保険などに付すよう定める条文の例があります。
- 契約方法には、1年間の工事をまとめる年間包括型と、工事ごとに入る個別型があります。
- 保険料は工事の規模・種類・条件で大きく変わるため、見積で確かめるのが基本です。
- 他人への賠償は請負賠償、引渡し後の事故はPL保険の領域です。
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工事保険(建設工事保険)とは
工事保険は、工事期間中に、施工中の建物や工事用の材料などが偶然の事故で損害を受けたときに、その復旧費用などを補償する保険の総称です。代表的なものに、建物の新築・増改築などを対象とする「建設工事保険」があります。
そのほか、機械や設備の据付けを対象とする「組立保険」、道路やトンネルなどの土木工事を対象とする保険もあります。どの保険が合うかは、主に行う工事の種類で決まります。
なぜ施工会社が入るのか
建物は、引渡しが終わるまで施工会社の管理下にあるのが一般的です。工事中に火災や盗難で建物や資材が損害を受けると、施工会社の負担でやり直さなければならない場面があります。完成間近の建物が燃えた場合、損害は請負金額に近い額になることもあります。
どちらが損害を負担するかは、請負契約の定めによります。契約書の「不可抗力による損害」「引渡し前の損害」などの条文を確認しておくことが大切です。
どんな損害が対象になるのか
補償内容は契約によって異なります。ここでは、木造住宅の業界団体が案内している建設工事保険の制度(2024年12月の認定資料)を例に、一般的な内容を紹介します。
補償の対象になるもの(例)
- 工事の対象物と、それに付随する仮工事の対象物
- 工事用の仮設電気配線・配管・照明・保安設備
- 現場事務所・倉庫などの工事用仮設建物(収容する備品の一部を含む)
- 工事用の材料と仮設材
一方、同じ資料では、工事用の機械・工具、自動車、設計図書などは補償の対象外とされています。重機や工具の損害に備えるには、動産総合保険など別の保険を検討します。
補償される主な事故(例)
- 火災・爆発・落雷
- 台風・竜巻などの風災、ひょう災
- 地すべり・土砂崩れ
- 盗難
- 作業員の取扱いミスや過失による事故
- 車両の衝突、航空機の落下
この資料では、水災や雪災は「オプション」として扱われています。水災が基本補償に入っているか、追加が必要かは保険によって違うため、浸水の心配がある地域の現場では特に確認が必要です。
対象外になりやすいもの(例)
- 地震・噴火・津波による損害
- コンクリートのひび割れや強度不足、さび・腐食などの劣化
- 設計・材質の欠陥そのものの修理費
- 完成の遅れや契約不履行による損害
- 故意・重大な過失・法令違反による損害
地震による損害が対象外とされる例は多く見られます。地震への備えが必要な場合は、特約や別の手段を含めて検討することになります。
加入が求められるのはどんな場面か
法律で一律の義務はない
「工事保険 加入義務」と検索される方は多いのですが、建設工事保険そのものに、法律で全ての工事に加入を義務づける定めはありません。ただし、契約によって加入が求められることがあります。
公共工事の契約書による付保
国土交通省の事務連絡(令和2年6月3日)に引用されている工事請負契約書の条文では、受注者は工事目的物と工事材料を、設計図書に定めるところにより火災保険・建設工事保険その他の保険に付さなければならない、とされています。保険契約を結んだら、証券などを直ちに発注者に提示することも定められています。
つまり、公共工事では「設計図書(仕様書など)でどう定められているか」が加入の判断基準になります。入札・契約の段階で、仕様書の保険に関する記載を確認しておきましょう。
元請・発注者の求めによる加入
民間工事でも、元請や発注者との契約書で工事保険の付保を条件にしている場合があります。下請として入る工事でも、元請から付保証明書の提出を求められることがあります。どの程度求められるかは取引先や工事によって違うため、契約書の条項を確認するのが確実です。
入るべき会社の目安
次のような会社は、工事保険の必要性を検討する価値があります。
- 建物の新築・増改築を元請として請け負う会社
- 資材を現場に置く期間が長い工事が多い会社
- 盗難が起きやすい銅線・設備機器などを扱う会社
- 公共工事を受注している、または受注を目指している会社
- 台風・大雨の影響を受けやすい場所の工事が多い会社
年間包括契約と工事ごとの契約
工事保険の契約方法は、大きく二つに分かれます。
| 契約方法 | しくみ | 向いている会社 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 年間包括契約 | 1年間に行う対象工事をまとめて補償する。完成工事高などを申告して保険料を決める | 工事件数が多く、毎回の手続を省きたい会社 | 対象から除く工事の範囲(下請工事・JV工事など)を確認する |
| 工事ごとの個別契約 | 工事1件ごとに、請負金額などをもとに契約する | 大きな工事が年に数件の会社、特定の工事だけ付保を求められた会社 | 入り忘れると無保険になる。着工前の手配が必要 |
業界団体の団体制度でも、直近の会計年度の完成工事高を申告して見積をとる仕組みが見られます。電気工事の業界団体の組立保険制度(2026年度版)では、元請工事に加えて下請として受注した工事も対象とする一方、完成工事高から除いた工事は補償の対象外とされています。
同じ制度では、公共工事でスポット的に付保を求められた場合に「付保証明書」で対応する仕組みや、引渡し後12か月以内の事故を補償するオプション、物価上昇に備えて復旧費を請負金額の130%まで補償する特約も案内されています。資材価格が上がっている時期は、復旧費が当初の請負金額を超えることもあるため、こうした特約の有無も確認しておくとよいでしょう。
年間包括契約で「入っているつもり」でも、対象外の工事があると補償されません。どの工事が含まれているかを、契約時に一覧で確認しておくことをおすすめします。
保険料について
工事保険の保険料は、工事の種類(新築か改修か、木造か鉄骨か)、保険金額、自己負担額(免責金額)、付ける特約などで大きく変わります。公開されている資料でも、具体的な料率は示されず「見積依頼」とされている例がほとんどです。このため、当サイトでは具体的な保険料の目安は掲載していません。複数の条件で見積をとって比べるのが確実です。
請負賠償との違い
工事保険と請負業者賠償責任保険(請負賠償)は、どちらも「工事中」の事故に備える保険なので混同されがちです。違いは「誰の、何の損害か」にあります。
| 項目 | 工事保険(建設工事保険など) | 請負業者賠償責任保険 |
|---|---|---|
| 備える損害 | 工事の目的物・材料そのものの損害 | 第三者の身体・財物への賠償責任 |
| 事故の例 | 施工中の建物の火災、資材の盗難、台風での損壊 | 掘削中にガス管を壊した、資材が落ちて通行人がけがをした |
| 保険金の使い道 | やり直し・復旧の費用 | 被害者への損害賠償金、争訟費用など |
| 主な契約のきっかけ | 公共工事の契約書、元請・発注者の求め | 事故時の賠償への備え、取引先の求め |
たとえば、施工中の建物から出火し、隣の家まで燃えたとします。この場合、施工中の建物の損害は工事保険、隣の家への賠償は請負賠償、というように二つの保険が別々に関わる可能性があります。どちらか一方だけでは、損害の一部しか備えられません。
引渡し後はPL保険の領域
工事が終わって引き渡した後、施工の欠陥で事故が起きた場合は、生産物賠償責任保険(PL保険)の領域になります。工事保険も請負賠償も、基本的には工事中の事故を対象としています。引渡し後一定期間の事故を補償する特約がある保険もあるため、内容を確認してください。
見直しのチェックポイント
- 主な工事の種類に合った保険(建設工事・組立・土木)になっているか
- 年間包括契約の場合、対象外の工事はどれか
- 水災・雪災・盗難が補償に含まれているか
- 公共工事の仕様書が求める保険の条件を満たしているか
- 請負賠償・PL保険と組み合わせて、抜けや重なりがないか
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よくある質問
Q. 工事保険は法律で加入が義務づけられていますか?
建設工事保険について、法律で全ての工事に加入を義務づける定めはありません。ただし、公共工事の契約書や設計図書、元請・発注者との契約で付保を求められることがあります。契約書と仕様書をご確認ください。
Q. 重機や工具の盗難も工事保険で補償されますか?
建設工事保険では、工事用の機械・工具は補償の対象外とされている例があります。重機や工具には、動産総合保険など別の保険で備えることを検討します。補償範囲は契約によって異なります。
Q. 下請として入る工事も年間包括契約の対象になりますか?
下請工事を対象に含める制度もあれば、対象から除く制度もあります。年間包括契約では、申告した完成工事高に含めた工事だけが対象になる例があるため、契約時に対象工事の範囲を確認してください。
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出典
- 国土交通省 大臣官房技術調査課 事務連絡(令和2年6月3日、工事請負契約書 第50条の引用を含む)
- 日本木造住宅産業協会 工事保険制度の案内(2024年12月)
- 日本電設工業協会 組立保険 団体制度の案内(2026年度版)
- JBN 工事保険制度の案内
記事は2026年11月時点の情報です。担当:保険募集人 櫻井高貴(行政書士・一級FP技能士)。運営者