請負業者賠償責任保険(請負賠償)は、工事中の事故で他人にけがをさせたり、他人の物を壊したりして賠償責任を負ったときに備える保険です。保険料は、完成工事高(1年間に完成した工事の売上)などをもとに計算されるのが一般的です。工事の目的物そのものの損害や、引渡し後の事故は別の保険で備えるため、守備範囲の違いを知っておくことが大切です。
この記事のポイント
- 請負賠償は「工事中」に「第三者」へ与えた損害の賠償に備える保険です。
- 新潟市の令和4年度の工事事故47件のうち、地下埋設物の損傷が16件(34%)で最も多くなっています。
- 保険料は完成工事高などで決まるのが一般的です。団体契約の料率例は「完成工事高1万円あたり約14〜17円」(平成29年の資料)です。
- 工事の目的物、借りた物・預かった物、引渡し後の事故などは対象外になりやすく、補償範囲は契約によって異なります。
- 引渡し後の事故はPL保険(生産物賠償)、工事中の目的物の損害は工事保険が受け持ちます。
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請負業者賠償責任保険とは
請負業者賠償責任保険は、請け負った工事や作業を行っている最中に起きた事故で、法律上の賠償責任を負った場合に保険金が支払われる保険です。建設業界では「請負賠償」「請賠(うけばい)」と略して呼ばれることもあります。
ある業界団体の団体保険の募集文書(令和6年度版)では、請負工事中の事故で他人の身体障害や財物の損壊について法律上の賠償責任を負った場合に保険金を支払う、と説明されています。資材置場などの施設の欠陥や管理の不備による事故、契約前の現場下見中の事故も対象とされています。
「賠償責任」に備える保険であることがポイント
この保険は、自分の会社の損害を直す保険ではありません。あくまで「他人に与えた損害を賠償する責任」に備えるものです。ですから、自社の重機が壊れた、自社が施工中の建物が燃えた、といった損害は、原則としてこの保険の対象ではありません。
支払われるのは、損害賠償金のほか、争いになったときの弁護士費用などの争訟費用、事故直後に損害の拡大を防ぐための費用などです。どこまで含まれるかは契約内容によります。
どんな事故が対象になるのか
工事中の事故は、大きく「対人事故」と「対物事故」に分けられます。
対人事故の例
- 足場から資材が落ち、歩行者にけがをさせた
- 重機の旋回中に、通行人と接触した
- 現場の養生が不十分で、近隣の住民が転倒した
対物事故の例
- 掘削中に水道管やガス管を傷つけた
- 足場が倒れて隣家の外壁を壊した
- 改修工事中に配管を傷つけ、階下のテナントを水浸しにした
地下埋設物の損傷は身近な事故
新潟市が公表した令和4年度の工事事故事例では、47件の事故のうち、地下埋設物(ガス管・水道管など)の損傷が16件で、全体の34%と最も多くなっています。また、事故全体の72%が、工事関係者以外に損害を与える「公衆損害」でした。
事例を見ると、原因は次のようなものです。
- 水道管は掘削範囲の外にあると思い込み、人力掘削の指示があったのに重機で掘った
- 試掘で本管の深さは確認したが、供給管が側溝の下で立ち上がっていることに気づかなかった
- 目視をせず、探り棒だけでガス管の位置を判断した
どれも、ベテランの現場でも起こり得る「思い込み」や「確認不足」です。水道管の損傷で断水が起きれば、管の修理費だけでなく、周辺への影響も問題になります。
賠償額が大きくなるケース
改修工事中に小型重機がスプリンクラー配管に当たり、階下の店舗が水浸しになった事例では、判決で1億円の賠償が認められたと紹介されています。店舗が営業できない間の休業損害も争点になりました。
他人の物を直接壊さなくても、クレーン倒壊で近くの店が営業できなくなった、といった「使用不能」の損害や、工事の遅れによる損害が問題になることもあります。こうした損害を対象にするかは、特約の有無で変わります。
保険料はどう決まるのか
基本は完成工事高などの売上
請負賠償の保険料は、完成工事高や売上高をもとに計算するのが一般的です。前述の団体保険の募集文書でも、保険期間中の見込み完成工事高、または直近の会計年度の売上高などで保険料を算出すると説明されています。
売上が確認できない新規事業者は、概算で保険料を払い、保険期間が終わってから実績で精算する方式もあります。保険料の計算のもとになる完成工事高は、正しく申告することが求められます。
料率の例
保険料の水準をつかむ参考として、公開されている資料の例を紹介します。いずれも特定の団体・時点の例で、現在の保険料を示すものではありません。
| 資料 | 条件 | 保険料の例 |
|---|---|---|
| 県建設業協会の団体契約(平成29年版) | 身体賠償1名3,000万円〜1億円、財物賠償1,000万〜2,000万円など | 完成工事高1万円あたり13.98〜17.02円 |
| 同上の試算(当相談室による計算) | 完成工事高1億円の場合 | 年約14万〜17万円 |
| 見積依頼の公開事例 | 土地造成業、完成工事高4,035万円、限度額1億円 | 前の契約で年154,200円(1万円あたり約38円) |
団体契約は割安な料率が設定されていることが多く、単独で契約すると保険料が高くなる可能性があります。また、業種のリスク(解体・とび・土木など)や、支払限度額、免責金額(自己負担額)、付ける特約によっても保険料は大きく変わります。
保険料を左右する主な要素
- 完成工事高・売上高の規模
- 工事の種類(新築か改修か、土木か建築か)
- 対人・対物の支払限度額
- 免責金額(1事故あたりの自己負担額)
- 地盤崩壊や使用不能損害などの特約の有無
- 過去の事故の状況
平成29年の団体料率の資料では、地盤崩壊の特約を付けると1万円あたり4円上乗せされる例が示されています。必要な特約だけを選ぶことが、保険料を適正にするポイントです。
対象外になりやすいもの
請負賠償には、支払われない損害が定められています。代表的なものを一般論として紹介しますが、実際の補償範囲は契約によって異なります。必ず約款と証券でご確認ください。
工事の目的物そのもの
施工中の建物や、作業の対象になった部分そのものの損害は、一般に請負賠償の対象外です。たとえば、自分が施工している建物が火事で燃えた場合は、工事保険で備えることになります。
借りた物・預かった物
リースした機械、発注者から支給された材料、修理のために預かった物などは、「管理下財物」として対象外にされることがよくあります。前述の団体保険でも、借用財物・支給財物・作業受託物は対象外とされ、支給財物は別の特約で補償する設計になっていました。
引渡し後の事故
工事が終わって引き渡した後に、施工の欠陥が原因で起きた事故は、請負賠償ではなく生産物賠償責任保険(PL保険)で備えるのが一般的です。
地盤沈下・振動など
掘削や基礎工事に伴う地盤の沈下・振動・土砂崩れによる損害は、特約を付けないと対象外になる例があります。土木や基礎工事を行う会社は、特に確認が必要です。
自動車事故・従業員のけが
自動車の運転中の事故は自動車保険の領域です。また、自社の従業員のけがは労災保険や労災上乗せ保険の領域で、請負賠償の対象ではありません。
PL保険・工事保険との違い
建設業の主な賠償・損害保険の違いを表にまとめます。どれか一つで全部を備えることはできないため、組み合わせで考えます。
| 保険 | 備える損害 | 時期 | 例 |
|---|---|---|---|
| 請負業者賠償責任保険 | 第三者への賠償責任 | 工事中 | 掘削中にガス管を壊した、資材が落ちて通行人がけがをした |
| 生産物賠償責任保険(PL保険) | 第三者への賠償責任 | 引渡し後 | 施工ミスが原因で引渡し後に漏水し、家財を濡らした |
| 工事保険(建設工事保険など) | 工事の目的物そのものの損害 | 工事中 | 施工中の建物が火災や盗難の被害にあった |
| 労災上乗せ保険・使用者賠償 | 働く人のけがと会社の賠償責任 | 工事中・業務中 | 作業員が墜落し、会社が安全配慮を問われた |
最近は、これらをまとめたパッケージ型の保険もあります。まとめると補償の抜けや重なりを見つけやすくなりますが、自社に不要な補償まで付いていないかの確認も必要です。
見直しの進め方
請負賠償の見直しは、次の順で進めると整理しやすくなります。
- 今の証券を出し、支払限度額・免責金額・特約を確認する
- 直近の完成工事高と、主な工事の種類を整理する
- 地下埋設物・地盤・使用不能損害など、自社で起こりやすい事故を洗い出す
- 工事保険・PL保険・労災上乗せとの重なりや抜けを確認する
- 複数の条件で見積を取り、補償と保険料のバランスを比べる
当相談室では、証券の読み合わせから補償の抜けの確認、見積の比較までをお手伝いします。事故が起きた後の賠償額の交渉や法的な責任の判断は、弁護士の領域となります。
よくある質問
Q. 下請が起こした事故も、元請の請負賠償で補償されますか?
下請負人が起こした事故を補償の対象に含める契約もありますが、すべての契約がそうとは限りません。補償範囲は契約によって異なるため、証券と約款で「被保険者」の範囲を確認する必要があります。
Q. 完成工事高が少ない年は保険料も下がりますか?
完成工事高を基準に保険料を計算する契約では、一般に完成工事高が下がると保険料も下がります。ただし最低保険料が設定されている場合があり、それを下回ることはありません。計算方法は契約ごとにご確認ください。
Q. 施工中の建物が燃えた場合は請負賠償で直せますか?
工事の目的物そのものの損害は、一般に請負賠償の対象外です。工事中の目的物の火災・盗難などには、建設工事保険などの工事保険で備えます。
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出典
- 新潟市「令和4年度 工事事故事例」
- 高知県建設業協会 団体契約 請負業者賠償責任保険(平成29年版)
- 比較ビズ 請負賠償の見積依頼事例
- 日本住宅リフォーム産業協会 団体保険 募集文書(令和6年度版)
- マネーキャリア 請負賠償の事故例(スプリンクラー配管損傷の判決例)
記事は2026年11月時点の情報です。担当:保険募集人 櫻井高貴(行政書士・一級FP技能士)。運営者