個人事業主が亡くなった場合は、死亡後30日以内に相続の認可を申請すれば、許可を引き継げる道があります。法人は、この相続の制度を使えません。社長が唯一の経営業務の管理責任者(常勤役員等)だと、後任がいなければ許可の要件を欠き、取消しや廃業につながるおそれがあります。
この記事のポイント
- 相続による許可の承継(建設業法17条の3)は、個人事業主だけの制度です。
- 個人事業主は、死亡後30日以内の申請が必要で、相続人が許可の要件を満たす必要があります。
- 法人で経管が社長1人の場合、後任がいないと許可の要件を欠くおそれがあります。
- 平時の対策は「後継の役員の体制」「遺言」「相続人の合意」「資金」の4つです。
- 生命保険は資金の備えです。保険で許可そのものは守れません。
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まず押さえたい2つの制度
建設業許可を次の代に引き継ぐ制度は、令和2年10月の建設業法改正で整いました。それまでは、事業を引き継ぐと新しく許可を取り直す必要がありました。現在は大きく分けて次の2つがあります。
| 制度 | 使える場面 | 申請のタイミング |
|---|---|---|
| 譲渡・合併・分割の認可(17条の2) | 法人・個人が事業の全部を引き継ぐとき | 引き継ぐ日より前に(事前に)認可を受ける |
| 相続の認可(17条の3) | 個人事業主の建設業者が亡くなったとき | 死亡後30日以内 |
どちらも、引き継ぐ人(会社)が許可の基準を満たしていることが前提です。経営業務の管理体制、営業所の技術者、財産的な基礎、社会保険の加入などです。また、引き継げるのは許可を受けた建設業の「全部」で、一部だけの承継はできません。
個人事業主が亡くなった場合
死亡後30日以内に認可を申請する
個人で建設業許可を持っている方が亡くなり、相続人が事業を続けたい場合は、死亡後30日以内に認可を申請する必要があります。相続人が複数いるときは、相続人全員の同意で、事業を引き継ぐ人を選びます。
申請をすると、亡くなった日から認可・不認可の通知を受ける日まで、亡くなった方の許可は相続人に対するものとみなされます。認可を受けると、相続人が建設業者としての地位を引き継ぎます。
30日は思った以上に短い
葬儀や各種の届出をしながら、相続人の同意をまとめ、許可の要件を確認する必要があります。相続人自身が経営経験や技術者の要件を満たしていなければ、認可は受けられません。
実際にどの書類が必要か、要件を満たすかの判断は、許可行政庁や建設業専門の行政書士への確認が必要です。平時から準備しておくことが、何よりの対策になります。
法人の社長が亡くなった場合
法人には相続の認可がない
法人の許可は会社が持っているので、社長が亡くなっても許可そのものが相続されるわけではありません。17条の3の相続の認可は個人事業主のための制度で、法人の役員の死亡には使えません。「30日以内に申請すれば許可が残る」というのは、法人には当てはまらない点にご注意ください。
経管が社長1人だけの場合のリスク
建設業許可の基準の一つに、経営業務を適正に管理できる体制(建設業法7条1号)があります。多くの中小の会社では、社長がこの「常勤役員等」(いわゆる経管)を1人で担っています。
社長が急に亡くなり、要件を満たす後任の役員がいなければ、この基準を満たさなくなります。建設業法29条1項1号は、この基準を満たさなくなった場合、許可行政庁は許可を「取り消さなければならない」と定めています。
許可の要件を欠いたときは、30日以内に廃業届を出すよう案内している手引もあります。経管が交替できる場合は、2週間以内に変更届を出します。実際の運用は許可行政庁ごとに確認が必要で、神奈川県であれば県の手引で確認します。
営業所の技術者も同じ問題がある
社長が営業所の技術者(専任の技術者)を兼ねている会社も少なくありません。この場合、技術者の要件も同時に欠けることになります。経管と技術者の両方について、代わりになる人がいるかを確認しておく必要があります。
平時にできる4つの対策
1. 後継の常勤役員等・補佐者の体制をつくる
令和2年の改正で、経営業務の管理体制の満たし方は広がりました。建設業の経営経験が5年以上ある常勤役員等のほか、常勤役員等と、財務・労務・業務運営の経験を持つ補佐者を組み合わせる方法もあります。
後継者や番頭格の社員を早めに役員にし、経験の年数を積んでもらうことが、社長が欠けても許可を守るための基本です。どの組み合わせで要件を満たせるかは、提携する建設業専門の行政書士が確認します。
2. 遺言で引き継ぐ人と財産を決めておく
個人事業主の場合は、相続人全員の同意で引き継ぐ人を選ぶ必要があります。遺言で事業用の財産を誰に渡すかを決めておくと、相続人の話し合いが進めやすくなります。
法人の場合も、社長が持つ自社の株式を誰が相続するかで、経営の主導権が決まります。株式が相続人に分散すると、後継者の選任がまとまらないこともあります。
3. 相続人の合意を取っておく
遺言があっても、家族が事業の承継に納得していなければ、もめごとの火種が残ります。社長が元気なうちに、誰が継ぐのか、ほかの相続人には何を渡すのかを話し合っておくことが大切です。相続でもめている場合は、弁護士への相談が必要になります。
4. 資金を準備する
社長が亡くなると、借入金の返済、後任の役員を迎える費用、相続税や、株式を相続しない家族へ渡すお金などが必要になることがあります。ここが生命保険の役割です。
生命保険の役割と限界
保険でできること
生命保険は、社長が亡くなったときにまとまったお金を用意する手段です。建設業の場合、たとえば次のような使い道が考えられます。
| 使い道 | 内容 | 確認先 |
|---|---|---|
| 事業の資金繰り | 経管が不在の間や、取引先への対応期間の資金 | 当相談室 |
| 借入金の返済 | 社長が連帯保証している借入への備え | 当相談室・金融機関 |
| 死亡退職金・弔慰金 | 遺族への支払いの原資 | 当相談室・税理士 |
| 相続人間の調整 | 事業を継がない家族へ渡すお金の準備 | 当相談室(遺言と合わせて) |
| 相続税・株式の買取り | 納税資金や株式を集めるための資金 | 税理士 |
死亡退職金や株式の評価、相続税の額は、会社や家族の状況で大きく変わります。個別の計算は税理士にご確認ください。
保険で許可は守れません
大切なことなので、はっきりお伝えします。生命保険で建設業許可そのものを守ることはできません。許可の要件は「経営経験のある役員がいるか」「技術者がいるか」といった人の要件だからです。
保険金が入っても、要件を満たす後任がいなければ許可は続けられません。保険は、体制づくりと遺言の準備を前提に、お金の面を支える役割だと考えてください。
社長が元気なうちのチェックリスト
次の項目に「いいえ」がある場合は、早めの準備をおすすめします。会社の形によって必要なことが変わるので、法人・個人の別も示しました。
| 確認項目 | 対象 | 「いいえ」のときの相談先 |
|---|---|---|
| 社長以外に、経管の要件を満たす役員がいる | 法人 | 提携行政書士 |
| 補佐者の体制で要件を満たせるか確認した | 法人 | 提携行政書士 |
| 社長以外に、営業所の技術者になれる人がいる | 法人・個人 | 提携行政書士 |
| 事業を継ぐ家族が、許可の要件を満たせる | 個人 | 提携行政書士 |
| 遺言で事業用財産・株式の行き先を決めている | 法人・個人 | 当相談室 |
| 家族が承継の方針に納得している | 法人・個人 | 当相談室(争いは弁護士) |
| 死亡時の資金(借入返済・退職金など)を試算した | 法人・個人 | 当相談室・税理士 |
特に個人事業主の場合、30日の期限の中で相続人の同意と要件の確認を済ませる必要があります。誰が継ぐのか、その人が要件を満たせるのかを、家族と一緒に確認しておくことが大切です。
事前の承継は早めの相談が必要です
社長が元気なうちに後継者の会社へ事業を移すなど、譲渡・合併・分割の認可を使う場合は、事前の申請が必要です。神奈川県の手引では、引き継ぐ日の3か月以上前の申請が目安とされ、審査はおおむね50日、事前相談は約4か月前が目安とされています。間に合わない場合は、廃業して新しく許可を取り直すことになります。
役割分担:手続は提携行政書士、資金と遺言は当相談室
許可の承継や変更届、要件の確認などの手続は、提携する建設業専門の行政書士が担当します。当相談室は、社長の生命保険による資金の準備と、遺言・相続の書類づくりをお手伝いします。相続税は税理士、相続登記は司法書士、争いがある場合は弁護士と、それぞれの専門家におつなぎします。
よくある質問
Q. 法人の社長が亡くなったら、すぐに許可がなくなりますか?
死亡でただちに許可が消えるわけではありません。ただ、要件を満たす後任の経管がいなければ、許可の基準を欠くことになり、取消しや廃業届の対象になるおそれがあります。早めに許可行政庁や行政書士へ相談してください。
Q. 個人事業主で、30日を過ぎてしまったらどうなりますか?
相続の認可は死亡後30日以内の申請が条件です。過ぎた場合は、相続人が改めて新しく許可を取る方法を検討することになります。具体的な対応は、提携する建設業専門の行政書士にご相談ください。
Q. 生命保険に入っていれば、許可の心配はいりませんか?
いいえ。保険は資金の備えで、許可の要件である人の体制は保険では満たせません。後継の役員の体制づくりと遺言の準備を合わせて進めることをおすすめします。
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出典
- 国土交通省「建設業法 改正 新旧対照表(令和元年法律第30号)」
- 京都府「令和2年10月 建設業法改正の概要」
- 神奈川県「建設業許可の手引(承継)」
- 東京都「建設業許可申請の手引」
- 関東地方整備局「事業承継等に係る認可の手引」
- 青森県「建設業法第29条 処分基準」
- 長崎県「建設業許可の手引」(令和4年6月)
記事は2026年11月時点の情報です。担当:保険募集人 櫻井高貴(行政書士・一級FP技能士)。運営者