経審の「法定外労働災害補償制度」は15点の加点項目です。ただし、労災の上乗せ保険に入っているだけでは足りません。「業務災害と通勤災害」「下請の従業員を含む」「障害等級1〜7級をカバー」の3つを満たす契約が、審査基準日に有効であることが条件です。
この記事のポイント
- 加点は15点。令和8年7月の改正後も点数は変わっていません。
- 要件は「業務+通勤」「下請の従業員も対象」「障害等級1〜7級の補償」の3つです。
- 加入先は共済団体・保険会社など5つの類型に限られます。
- 経審は原則として決算日(審査基準日)時点で評価されます。
- 保険の名前ではなく、証券の担保範囲で判断するのが確実です。
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法定外労災の加点は15点。改正後も変わらない項目です
経審のW点(社会性等)には、保険に関係する加点項目がいくつかあります。その一つが「法定外労働災害補償制度への加入」で、配点は15点です。
令和8年7月1日以降の申請から経審の基準が改正されました。社会保険未加入の減点が削除されるなど、W点は大きく動きました。それでも、法定外労災の15点は改正の前後で変わっていません。建退共(15点)、退職一時金・企業年金制度(15点)と並ぶ、比較的取り組みやすい加点項目です。
「法定外」とは、国の労災保険(政府労災)とは別に、会社が上乗せで用意する補償のことです。政府労災の給付に加えて、死亡や後遺障害のときに会社から一定額を支払える仕組みを指します。
加点の3要件:業務+通勤、下請の従業員、障害等級1〜7級
加点の要件は、国土交通省の通知「経営事項審査の事務取扱いについて」に書かれています。要点は次の3つです。
要件1:業務災害と通勤災害の両方が対象
政府労災の給付の原因になった「業務災害」と「通勤災害」の両方を補償する契約であることが必要です。現場での事故だけを補償し、通勤途中の事故を対象外にしている契約は、この要件を満たしません。
要件2:下請負人の従業員も対象
自社が直接雇っている従業員だけでなく、自社が請け負った工事を施工する下請業者の従業員も対象であることが必要です。建設業らしい要件で、ここを見落とす会社が少なくありません。
要件3:障害等級1〜7級の補償をカバー
原則として、政府労災の障害等級第1級〜第7級に当たる障害補償と、遺族補償などを対象にしている必要があります。死亡だけを補償する契約や、重い等級の一部だけを補償する契約では足りない可能性があります。
神奈川県の経審の手引(令和8年7月1日版)でも、提出前の確認票で「下請負人対象」「通勤災害対象」「死亡及び労災障害等級1〜7級補償」の3点を確認するよう求めています。
加入先は5つの類型。保険会社の契約も対象です
通知では、加点の対象となる契約先が次のように定められています。共済団体だけでなく、保険会社との契約も対象です。
| 類型 | 契約先 | 補足 |
|---|---|---|
| 1 | (公財)建設業福祉共済団 | 建設業の共済制度 |
| 2 | (一社)全国建設業労災互助会 | 建設業の互助制度 |
| 3 | (一社)全国労働保険事務組合連合会 | 見落とされやすい加入先です |
| 4 | 中小企業等協同組合法に基づく共済 | 共済規程の認可を受けたもの |
| 5 | 保険会社 | 損害保険会社などとの契約 |
「対象は4団体だけ」と紹介している記事も見かけますが、通知には全国労働保険事務組合連合会も明記されています。どの類型を選んでも、上の3要件を満たすことが前提です。
審査基準日に加入していることが前提です
経審は、原則として申請日の直前の決算日を「審査基準日」として、各項目をその日の状況で評価します。神奈川県の手引でも、この原則が示されています。
そのため、法定外労災も審査基準日に契約が有効であることが前提になると考えられます。決算日の後に慌てて加入しても、その期の経審では評価されない可能性があります。逆に、決算日をまたいで契約が切れていないかも確認が必要です。
なお、改正後の基準は「令和8年7月1日以降に受け付けた申請」に適用されます。審査基準日ではなく、申請の受付日で新旧が決まる点にご注意ください。
証券で確認するポイント(チェック表)
加点できるかどうかは、保険の商品名ではなく、契約の中身で決まります。お手元の保険証券や加入証明書で、次の項目を確かめてください。
| 確認項目 | 見る場所の例 | 加点に必要な状態 |
|---|---|---|
| 契約先 | 証券の発行者欄 | 上の5類型のいずれか |
| 保険期間 | 保険期間・共済期間 | 審査基準日が期間内 |
| 通勤災害 | 補償の対象となる災害 | 業務災害と通勤災害の両方 |
| 下請の従業員 | 補償対象者の範囲 | 下請負人の従業員を含む |
| 障害等級 | 後遺障害の補償範囲 | 1〜7級を含む |
| 死亡・遺族 | 補償の種類 | 死亡(遺族)補償を含む |
| 経審の表示 | パンフレット・特約名 | 表示があっても中身を確認 |
保険会社や共済によっては「経審対応」とうたう制度もあります。それでも、最終的には証券に書かれた担保範囲で判断されます。審査で提出する書類は、経審を担当する行政書士と事前にすり合わせておくと安心です。
民間の労災上乗せ保険で加点されない典型例
ここからは、要件から考えられる注意点です。実際の判断は許可行政庁が行うため、以下は筆者の推測を含むものとしてお読みください。
通勤災害が対象外になっている(推測)
保険料を抑えるために、業務中の事故だけを補償する設計にしている契約があります。この場合、要件1を満たさないため、加点されない可能性が高いと考えられます。
自社の従業員だけが対象になっている(推測)
補償対象を「記名した従業員」や「自社の従業員」に限っている契約です。下請の従業員が対象外なら、要件2を満たしません。建設業以外の業種向けの業務災害保険で起きやすい形です。
死亡だけ、または一部の等級だけを補償している(推測)
死亡時の補償だけの契約や、障害等級の1〜3級だけを補償する契約です。原則として1〜7級の補償が必要なため、足りないと判断される可能性があります。
保険期間が審査基準日をまたいでいない(推測)
更新を忘れて決算日に契約が切れていた、決算日より後に加入した、という例です。その期の審査では評価されない可能性があります。
決算前に済ませたい準備の流れ
加点を取りこぼさないためには、決算日の前から準備を始めるのが確実です。一般的な流れは次のとおりです。
| 時期の目安 | やること | 担当の例 |
|---|---|---|
| 決算の3か月ほど前 | 今の証券を出して、3要件を満たすか確認 | 総務・保険募集人 |
| 決算の2か月ほど前 | 足りない場合は、補償の追加や切り替えを検討 | 社長・保険募集人 |
| 決算日まで | 新しい契約の保険期間が始まっていることを確認 | 総務 |
| 経審の申請前 | 加入を証する書類(証券の写しなど)をそろえる | 総務・経審担当の行政書士 |
時期は目安です。保険会社や共済によって、申込みから契約開始までの期間が違います。切り替えのときは、古い契約が切れる日と新しい契約が始まる日の間に空白ができないよう注意してください。
確認書類は「写し」で出せることが多い
神奈川県の手引では、法定外労災は「加入を証する書類」を確認書類として求めており、確認書類は写しで提出できるとしています。どの書類が「加入を証する書類」として通るかは、証券の記載内容にもよります。経審担当の行政書士に事前に見てもらうと安心です。
保険料と補償額のバランスも見直す
加点の要件は補償の「範囲」を求めるもので、補償の「金額」の下限は通知に書かれていません。ただし、発注者や元請が補償額を指定することもあります。加点のためだけに範囲を広げるのか、補償額も見直すのかは、御社の現場の実情に合わせて考えるのがおすすめです。
公共工事では別途、付保を求められることがあります
経審とは別の話として、公共工事の発注者が法定外労災への加入を求める例があります。国の土木工事の積算基準では、令和2年の改定から法定外労災の保険料が現場管理費に含まれ、付保が求められるようになりました。
東京都の都営住宅整備工事の共通仕様書のように、証券の提示を求める例もあります。茨城県や牛久市のように、入札参加資格の格付で加入を要件にしている自治体もあります。経審の要件と発注者の要件は同じとは限らないため、両方を確認しておくと安心です。
当相談室でお手伝いできること
当相談室は、保険募集人として、お手元の証券が3要件を満たしているかの確認と、足りない場合の補償の見直しをお手伝いします。特定の保険会社や商品をおすすめすることが目的ではありません。共済を含めて、御社に合う形を一緒に考えます。
経審の申請書類の作成や点数の試算は、提携する建設業専門の行政書士が担当します。労災の特別加入や労働保険の手続きが必要な場合は、社会保険労務士や労働保険事務組合をご紹介します。
よくある質問
Q. 労災上乗せ保険に入っていれば、経審で15点もらえますか?
入っているだけでは決まりません。業務災害と通勤災害、下請の従業員、障害等級1〜7級という要件を満たす契約であることが必要です。証券の担保範囲で確認してください。
Q. 決算日の後に加入しても、次の経審に間に合いますか?
経審は原則として審査基準日(決算日)時点で評価されます。決算日の後に加入した場合、その期の審査では評価されない可能性があります。具体的な扱いは許可行政庁や経審担当の行政書士にご確認ください。
Q. 共済と民間保険では、どちらが加点に有利ですか?
通知上、どちらも加点の対象になり得ます。有利不利は類型ではなく、契約が要件を満たすかどうかで決まります。補償の範囲や保険料、公共工事での証券提出のしやすさなどを比べて選ぶのが一般的です。
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出典
- 国土交通省「経営事項審査の事務取扱いについて」(令和8年2月6日改正、京都府掲載)
- 国土交通省「経営事項審査の改正について」
- 神奈川県「経営事項審査の手引」(令和8年7月1日版)
- 香川県「法定外労災保険の付保について」
- 東京都「都営住宅整備工事共通仕様書」
- 牛久市「法定外労働災害補償制度の加入について」
記事は2026年11月時点の情報です。担当:保険募集人 櫻井高貴(行政書士・一級FP技能士)。運営者